出口のないお花畑に迷い込んで

あなたがそこにいてくれるから

「愛と青春キップ」備忘録その②

 

 その①の続きです。

l0uk0v0s.hatenablog.jp

 

前回同様、ただのネタバレなので、お気を付けください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗転後、薄暗いなか踊りながら上手から出てくる優くん。セットのセンター中段に仰向けに横たわる。右手はだらんとした感じ。お伽噺に出てきそうな美しさ。

 

はじめに目を覚ますのは亨くん。ゴホゴホと咽る。体を打ち付けたのか、痛そうにしながら起き上がる。

亨「……助かった……」

周りを見回し、みんながいることに気付く。

亨「おい! 大丈夫か! 慎吾!!!」

亨「おい涼子!!!」

亨「優!!! おい、優!!! 起きろ!!!」

ゆっくりを目を開け、虚ろなままゆっくり体を起こし、あたりを見回す。一切咽ることもなく、声を発することもない優くん。

 

立ち上がって目を細めて状況を確認する。 

優「ここは……島か……?」

時生「静さんがいない!」

優「波に飲み込まれたときはみんな一緒だった」

涼子「りっちゃんも!」

優「修一もいない!」

亨「他のみんなもどこかに打ち上げられてるはずだ。手分けして探そう!」

優「ああ!」

 

修一「おーーーい!!! 誰がいるかーーー!!!」

涼子「ねえ、今の修一の声じゃない?」

優「そうだ!」

 

修一「良かった! みんな無事で」

亨「大丈夫か?」

修一「俺は大丈夫。でも、静さんが随分と体を打ち付けたみたいで」

亨「大丈夫ですか?」

静「わたしのことは良いのよ。みんな自分のことだけ考えて」

亨「俺たちは大丈夫です。静さんはあっちのほうで休んでてください。りっちゃん」

りつ子「静さん」

 

慎吾「助かったのはいいけど、俺たちこれからここでどうすんだ?」

時生「どうするって言っても救助が来なきゃ何もできませんよ」

慎吾「その救助がいつ来るかわからないからどうすんだって言ってんだよ!ったく…付き人のくせに偉そうに」

時生「俺はダンサーでもあるんです! それにここではみんな同等なんだから偉そうにしないでくださいよ」

慎吾「は?! お前誰に向かって言ってんのかわかってんのか?!」

項垂れる慎吾さんのそばにしゃがみ込み、ポンポンって腕を叩いて慰める優くん。とても優しい表情。

亨「やめろ!!! こんなときに喧嘩なんかすんじゃねぇよ…今はみんなで力を合わせるときだろ…食べるものだって探さなきゃならないし」

優「じゃあ、俺が島のなかに入って探してくる(よ)!」

ミエ「わたしも行きます! 船では料理の見習いをしていたので、食べられるものの見分けくらいはつくと思います!」

優「すごいね! 助かるよ!」

修一「そうだ、魚でも釣って食べられないかな?」

レイ「岩場の浅いところなら小魚くらいは簡単に捕まえられるかも! ねえ、あなた船の上で会ったよね? お名前は?」

優子「優子…」

レイ「あなたも一緒に行く?」

優子「行きたくないし、何もしたくない…どうせみんな死ぬんだから…」

涼子「あんたねぇ、さっきから死ぬ死ぬって言ってるけど、そういうこと簡単に言うもんじゃないわよ」

優子「あなたには関係ないでしょ」

涼子「何言ってんの。今はみんなで力を合わせて乗り越えるときなんだよ?」

優子「ほっといて!」

亨「涼子! 彼女にも何か事情があるんだよ」

涼子「でも、」

亨「今は彼女の好きにさせてあげよう」

涼子ちゃんと目を合わせて、うんうんと頷く優くん。

亨「まずは探索してこの島のことを知ろう。目印になるものも必要だし、食べ物も」

修一「よぉ~し! じゃあ、手分けしてやーろぅ! えい!えい!おー!…ってあれ?」

呆れたお顔の優くん。

修一「ほら、みんな元気がないよ! また歌おうか? 元気が出る歌!」

歌いながら何かしらのダンスや動作をする修一くん。毎回変えてくる。面白い動きをするときもあって、それを見て吹き出しちゃうことが多かった優くん。慎吾さんとかと「あいつやばい」って言い合う。

 

時生「おい!」

優「どうした?」

時生「どうしたじゃないよ!」

優「何が?」

時生「何がってひとり足りないだろ!」

「「「え?」」」

時生「ほら! 我がチームのオーナー!」

「「「吉野さん!!!」」」

亨「じきに夜が来る。暗くなる前に探そう」

「やばいやばい」って言いながら探す優くん。

生き物の鳴き声のような音が聞こえてくる。

亨「今変な声がしたな…?」

涼子「あっちのほうから聞こえる」

亨くんの背中に隠れようとする優くんと、優くんの腕や脚、体にしがみつく亨くん。

 

上手から吉野さん登場。髪の毛がぼさぼさになっていて、体中にツタが絡みついている。足にライフジャケットがついて引きずって歩く。 

優「吉野さ~~~ん!!!もうどこ行ってたんすか、あぁあぁ、こんなんになっちゃって……」

上手のほうに走って行って、吉野さんに抱き着く優くん。そのままセンターに。

アインシュタインみたいになっちゃって…」の日も多かった。髪の毛両手で挟んで立たせるように上げたり。 

吉野「あのね、聞いてくれる…? 助かったと思って食べ物を探しに森に入ったら、ツタに絡まってこんなんになっちゃった…」

亨「元気そうですね」

吉野「元気じゃないよぅ…ハッ 静さんは?!」

キョロキョロする吉野さん。

亨「大丈夫です。あっちのほうで休んでます」

吉野「静さ~~~ん!!!」

亨くん突き飛ばす。めちゃくちゃ痛そう。優くんも突き飛ばされる回あり。修一くんも襲われることも。

みんなで笑い合う。

亨「やっぱお腹空いたな。食べ物探しに行くか」

優「ああ」

 

● みんなでつくろう 

下手に捌けて、黄色の傘を持って戻ってくる優くん。下手に取り付ける。

上手に捌ける。直前に涼子ちゃんとすれ違って、「あっちにあった」とか「いいね!」とかやる。

葉っぱ持って戻ってきて、センター奥から前に出てきて、みんなに葉っぱアピール。

「見て!葉っぱ」「葉っぱがありました~!」「ねえ💢」「葉っぱ! 葉っぱ!」とか。みんな反応してくれないから、修一くんの脚を葉っぱで叩いた回も。

下手に捌けて、ボウル持ってぐるーっとセットのまわり回ってもう一度下手に。慎吾さんとボウル見せ合う。

曲が終わるタイミングでセットの定位置に座る。

修一「はい、ちゅうも~く! 今日のごはんは、ミエちゃんが工夫して作ってくれました! はい、みんな拍手!」

ミエ「えーそれでは、みなさんに食べられるものを配ります!」

小さく左手でガッツポーズする優くん。可愛い! 後半は時生くんとアイコンして何度もガッツポーズするようになった。仲良し。

 

♪ 夜空の楽しい食卓 ~Cooking Song~

幸せごはんを作ろうよ

自然の食べ物いっぱい入れて

みんなで食べれば心も満腹

 

幸せごはんを作ろうよ

自然の食べ物いっぱい入れて

器は心を込めて リサイクル

 

リズムに合わせて肩を上下させる。吉野さんとお顔見合わせる優くん。

器をもらうとき、ミエちゃんの目を見て「ありがとう」って言う優くん。

吉野「この器はなんだ?」

時生「これペットボトルの片割れですよ」

優「あっちのほうに、鍋釜とかプラスチックのゴミとかいっぱい流れてきてて」

吉野「ゴミが器かぁ」

 

(吉野)これ魚でしょ 変な色

(修一)いちいち文句が多いですよ

(亨)食べられるだけマシなんですから

(吉野)わかってるよ でもこれ一匹だけかぁ

(静)贅沢言わないの 気持ちを食べなさい

 

静「うん、美味しい!」

 

(レイ)上手くとれなくてごめんなさい(Uh)

    でもコツがわかったので(Uh)

    今度は今度はたくさんとってきます

 👏👏🙆

 

レイちゃんパート中、コーラスしながら、右手に魚を持って左右に振る。

 

ミエ「はい、どうぞ」

器を前に出して入れてもらい、「ありがとう」って言う優くん。

 

(吉野)今度は森の食べ物か

(レイ)体にいいもの採ってきました

(吉野)この菜っぱはいいね やっと食べ物らしくなってきた!

 

吉野「これ何の菜っぱだ?」

ミエ「小松菜のようなものです!」

吉野「こまちゅなかぁ」

 

(慎吾)意外といける (吉野)いける

(時生)噛めば噛むほどいい味が出る

(ミエ)美味しいでしょ 雑草ですけど胃に優しいんです

雑草?!

雑草 雑草 雑草 雑草 雑草 雑草

(レイ)雑草でも体にいいからいいじゃないですか

 

雑草?! のとき顔をしかめる優くん。そのまま苦い顔で雑草ゆらゆら。

 

(ミエ)続いて(Ah)今夜の(Ah)主食です(Ah)

 

修一くんと向かい合って大きくガッツポーズする優くん。

 

たんぱく源が一番ありますのでたくさん採ってきました

 

器持って横一列になって、入れてもらうの松。後半は慎吾さんに横取りされて、レイちゃんに順番飛ばされるようになる。「俺は? ねえ、俺は?」ってアピールして入れてもらう。地面に落ちちゃった回もあり。

 

(レイ)ミエちゃんが火で調理しました!

    美味しいと思います

美味しい 美味しい 美味しい 美味しい

美味しい 美味しい 美味しい

 

座って食べて、においを嗅いだり右手を頭にやったり、器をぐるっと前に出したり。最後は吉野さんと顔を寄せ合う。

 

(吉野)ちょっと苦いけどカリカリしてて味はまぁまぁだなぁ

(レイ)良かったね

(慎吾・時生)このたんぱく源はなんなの?

(ミエ)それはコオロギです!

コオロギ?!

(ミエ)日本人は食べませんけど

    東南アジアではみんな食べています

 

明日のごはんは そのへんにいた

ワーワワーワワ

カエルにしようと思います

明日はカエル

カエル カエル

明日はカエル

 

ワーワワーワワでりっちゃんと向き合う優くん。

 

レイ「それでは、カエルは明日のごはんなので回収しまーす」

うげぇって顔でカエル返す優くん。手のにおい嗅いでくさってしたり、吉野さんに手を擦り付けられて怒ったり。

 

優「いろいろ食べられるものを見つけてくれてありがとう」

 

りつ子「結構美味しいですね、静さん!」

静「そうね、初めて食べたけど意外といけるわね」

涼子「ふたりの愛がこもってるから、美味しいのよね」

修一「ミエちゃんレイちゃん、本当にありがとう!……どうかした?」

ミエ「嬉しい……すごく嬉しいです。わたし、料理人になるのが夢なんです。どうして料理人になりたいと思ったのか、思い出しました。こんな気持ち忘れてたな……」

静「みんな、生きてることをありがたいと思いましょう。見て。夜に火があるだけで、こんなにあたたかい気持ちになれるなんて、忘れてたわね。ここへ来て、気付かされるなんて。みんなにお礼言わないと。わたしは横になっていただけで、何も力になれなくてごめんなさい」

修一「いいんですよ!静さんのおかげで、僕らステージに立ててるんですから。こんなときくらい頼ってくださいよ!」

優「そうですよ、それに俺ら若いから」

ここで吉野さんに絡まれることが多い。吉野「ピッ!セクハラ!」優「ピッ!パワハラ!」静「ピッ!いいコンビ!」とか。あとは首絞められることも。

静「今回のショー決めたのわたしなの。みんなを巻き込むことになってしまってごめんなさい」

亨「静さんのせいじゃないですよ。またバックダンサーとして呼んでもらえてありがたいって思ってます」

吉野「亨、話はあとあと、温かいうちにコオロギ食べろぉ~」

亨「いいよ、コオロギはもう…」

みんなコオロギ食べはじめるけど、コオロギ持っていろんな角度から眺めてはみるけど、一切食べようとしない優くん。

 

りつ子「どうしたの? 大丈夫? 食べないの?」

優子「いらない」

りつ子「でも食べたほうが体にはいいよ!」

優子「ほっといてよ!」

涼子「あんたさっきからなんなの? 食べたくないなら勝手にすればいいけど、いっつも空気壊して楽しい?」

優子「うるさい! いちいち鬱陶しいのよ!」

涼子「そんな言い方しなくたっていいでしょ!」

亨「涼子!」

涼子「は? なんでわたしが責められなきゃならないの?」

亨「責めてるわけじゃないけど…何も知らないのに否定するもんじゃない」

涼子「折角こうして助かったんじゃない。命を大切にしない人に怒ってるわたしが悪いの?」

亨「そうじゃない。でも、優子ちゃんの気持ちも考えてあげるべきだろ」

涼子「じゃあわたしの気持ちは…? いい子ぶらないでよ!」

遠くから覗き込むようにして、心配そうに亨くんのことを見る優くん。

 

涼子「言っとくけどね、わたしは! 生きて生きて生き抜いてやる! それで戻ったらまた思いっきり踊ってやるんだから。この気持ち、あんたにはわからないか」

下手袖に走り去る優子ちゃん。

亨「優子ちゃん!」

優「亨、俺が行く」

亨「俺も行く」

優「大丈夫、俺に任せて」

 

♪ 名もなき花

(優子)たったひとつの夢 ぜんぶふいに散られ

    闇の底にいた

    切れそうな糸でも すがれたらいいけど

    望みなんてない

 

優子「…!なんか用?」

優「俺も、昔はいつもひとりだった。なんかあんたの気持ち、俺わかるんだ。誰も自分のことをわかってくれないって殻に閉じ籠って。人付き合いも上手くないし。問題ばっか起こして」

優子「一緒にしないで!!!あなたは恵まれてるじゃない!!!あなたには友達もいるし、ダンスだって…!!!」

優「ダンス…?ダンスやってんの?」

優子「うるさい!」

優「今度見して?」

優子「もうやめたの!」

優「どうして?……怪我でもした?」

優子「……気持ち悪いって……お前なんか踊っても気持ち悪いだけだって……」

 

(優子)なぜ生きるんだろう なぜもがくんだろう

    ひとりぼっちで

    本当のわたし どこに行ったの

    まだ間に合いますか?

    名もなき花でも見つけてほしいよ

 

しゃがみこむ優子ちゃん。

小さく頷く優くん。

優「一緒に踊んない?」

優子ちゃんの隣にしゃがむ。

優「俺は、亨と修一と出会って、一緒にステージに立とうって誘われて、初めて自分だけの世界から外に飛び出せたんだ。踊るようになってからは、自分だけの世界が、ちっぽけでつまらないってことに気付いた。ひとりじゃないんだって思えるようになった。生まれるときも、死ぬときもひとりだけど、生きてるときくらいは、仲間がいるといいなぁ、なんて思えたから」

 

(りつ子)夢のつぼみしまいこんでた

     咲いたってきっと気付かれないと

     他の人がみんな眩しすぎて

 

亨「りっちゃん…」

りつ子「亨くん」

亨「この無限に広がる海を見ていると、自分なんてちっぽけだって思わない? 誰かに見つけてもらえないと、存在すらもなくなるんだよなぁ」

亨「闇に放り出されて、ここに来てから、空回ってばっかりっていうか。仲間をまとめることすらできてない気がするんだ。いい子ぶるなって言われたとき、何も言葉が出なかった……」

 

(亨)大きな地球を感じていると

   どこにいるのか見失うけど

   チクリと刺す痛み たしかにある

 

りつ子「わたしもね、大きくて真っ暗な海の上にいたときに、もうだめかもって思った。でもね、このまま死んだら絶対後悔するって思ったの。だから、戻ることができたら中途半端に諦めたダンス、またやってみようと思う! 静さんにもちゃんと話すつもり!」

 

なぜ生きるんだろう なぜもがくんだろう

ひとりぼっちで

本当のわたし どこにいったの

まだ間に合いますか

名もなき花でも見つけてほしいよ

 

りつ子「じゃあ、わたし行くね」

 

優「俺なんとなく、君が死ぬ前にひとりじゃないよって、言いたかっただけだから。歩こう。砂浜歩くと気持ち良いよ」

優子「……待って!……わたしは走りたい」

優「いいよ」

 

(亨)なぜ生きるんだろう なぜもがくんだろう

   一体なんのために

   あの頃の自分 どこへ行ったの

   もういないのかな

   名もなき花でも誇りがほしいよ

   名もなき花でも

 

グレーアウトした世界。水に絵の具を垂らしたような、黒いもやもやが広がっていく。混沌。

体を痒がりながら歩く慎吾さん。

気が狂ったように傘で文字を書いては消す涼子ちゃん。

ミエちゃんお鍋を引っくり返す。空っぽ。レイちゃんお腹空いたジェスチャー

静さんも出てくる。

亨「これ、今日の晩飯にして」

ミエ「ありがとうございます、助かります」

少しずつ色づく世界。夕焼け。

亨「静さん、ちょっと相談があるんですけど、いいですか?」

静「ええ、どうしたの?」

亨「この島に来てから今日で一週間になります。俺、考えたんですけど、昼間やることがないならダンスの練習でもしませんか?」

静「え?」

亨「俺たちのダンスを見てもらえるだけで良いんです! ここに来る前にやっていたみたいにやっておきたいんです!」

静「でもそれは公演があったからだし、みんなはここでダンスしたいって思うかしら」

亨「でも、なにもやらないよりはやったほうがいいんじゃないかなって思って」

静「わかったわ。リーダーがそこまで言うんならそうしましょう」

亨「ありがとうございます!」

 

慎吾「亨…今日の収穫これだけだ…」

涼子「探したんだけど、いつもと違ってなかった…」

亨「そういう日もあるよ! 明日はきっと見つかるって!」

慎吾「え…」

目を見開く慎吾さんと時生くん。

亨「そうだ! 静さんと相談して、ダンスの練習することになった! 修一と優にはもう話してある。涼子もやろう!」

慎吾「お前何言ってんの?」

亨「何ってダンスだよダンス!」

慎吾「お前リーダーぶりたいのはわかるけど、ロクに食べるものもないってときに踊ろうなんて、よくそんなこと簡単に言えたな」

亨「俺たちダンサーだろ? やらないと鈍っちゃうし、こう、体動かしてると気持ちが晴れるし。涼子もまた踊りたいって言ってただろ?」

涼子「言ったけど! 今はそんな気になれない! 亨には、わたしの気持ち、わからないんでしょ? それに慎吾も言ってたけど、ここではあんたはリーダーでもなんでもないんだから、もう命令するのはやめて!」

亨「命令って……俺はそんなつもりで言ってないよ?」

また世界がグレーアウトしていく。

慎吾「お前になくてもみんな感じてんだよ!」

時生「そうだよ。ダンスダンスって、リーダーならリーダーらしくここから出られる方法を考えてくれよ!」

亨「それも考えてるけど。でも、お前だってダンスやりたいだろ?」

時生「じゃあ聞くけど! お前はなんのためにこんなところで踊るんだよ!」

亨「だからそれは…踊らないと鈍っちゃうし、戻ったときにまたちゃんと踊るために…」

時生「だから戻れるかどうかわからないんだって!!! 意味ないんだって!!!」

慎吾「やめよう。騒ぐと腹が減る。涼子、もう休もう」

涼子「そうね、休んでたほうが楽ね」

 

静「亨……あんまり無理しないで」

亨「……はい」

星空。亨くんソロダンス。

 

修一「あ、優! ステージのサイズこんなもんでいいかな?」

優「うん、いいと思う!」

修一「あれ、亨は?」

優「まだ来てない」

修一「みんなも?」

優「うん、まだ。昨日話したのになぁ。……もしかして、みんな踊る気になれないのかな?」

修一「じゃあ、ただこうして毎日ぼーーーっと、してるだけでいいの?」

ぼーっと、に合わせて上を見る優くん。

優「俺はやだよ。でもみんなは、あてのないダンスをするのってどうなのかって思ってるんじゃないの?」

修一「あてがないわけじゃないよ! 戻ったらきっとまたショーに出られる。そのために、今練習しておくんだよ」

優「お前は本当に前向きだなぁ」

修一「それにしても遅いなぁ、亨のやつ。静さんに話するって言ってたけど」

優「うん、したと思う。静さんがいないと話にならないし」

修一「あ、亨! どこ行ってたんだよ。あれ、みんなは? 誰も来ないの…?」

亨「みんな踊る気になれないんだってさ。なんのためにやるんだ、やる意味はあるのかって、逆に訊かれちゃったよ」

優「…言い返したんでしょ? 言い返してないの? 亨らしくないじゃん。なんで言わなかったんだよ。場所はどこでも、みんなでやれば」

亨「うるさい!!! 言おうとしたよ! でも、客も誰もいない、いつ戻れるのかもわからない、こんなところで踊る意味があるのかって訊かれたら、わからなくなった。俺が間違ってたんだよ」

優「亨は間違ってないよ」

亨「ここに来てはじめて、もうできないかもしれないからってダンスに縋ってるだけなんじゃないかなぁ。俺から言い出したんだけど、修一も優も、無理に付き合ってくれなくていいから。命令するつもりもないし」

修一「なんでそんなこと言うんだよ…なんで亨がそういうこと言うんだよ! 一週間前までは、誰もこの島に来ることなんてわからなかった。沈むってわかってたら、誰も船になんて乗らなかったよ。あのときボートに乗れずに海に落ちていたら、僕らみんな死んでたかもしれない。でも、助かったんじゃないか! いつも、明日どうなるかわからないから、一瞬一瞬を大切に過ごすんだって、そう言ってたの誰だよ。場所なんて関係ない。踊ってると、元気が出て、楽しくなって、生きてるー!ってそう感じるって言ってたの誰だよ!!!

苦しいときこそ、つらいときこそ、ダンスが自分を救ってくれるんでしょ? それが大事なことでしょ? 情熱を持ち続けることは、難しいことかもしれない。でも、忘れちゃだめだよ。思い出せばいいんだよ! だって、生かされたんだから。やりたいやつだけやればいい。僕らだけでもしようよ! ダンスは! 僕らにとって、生きるためのエネルギーになるから!」

そっと亨くんの肩に手を置き、しっかりと目を合わせる優くん。

優「誰も見てなくても、踊る意味は生まれる。俺は、そういう亨に、救ってもらったから。だから亨は、間違ってないんだよ」

(後半から、

優「場所はどこだって、誰も見てなくたって、踊る意味は生まれる。俺は、そういう亨に、救ってもらったから。だから亨は、間違ってないんだよ」

に変更)

亨「苦しいときこそ救ってくれる、かぁ…」

一歩下がって深く頭を下げる亨くん。

修一「もう暗い顔しないで、また元気が出る歌歌おうか?」

亨「いいよ」

● Believe Yourself

修一「サイッコーーー!!! はぁ…もうだめ、ギブ…」

亨「やっぱお腹空いたな」

修一「疲れた~お腹空いたっ」

亨「よし、食べ物探しに行くか!」

 

下手袖を見つめて微笑む優くん。静さん姿に気付いたのかな。ふたりを追いかける。

 

♪ Butterfly

いつの間に こんなに時が流れたの

あの頃のわたし どこに

 

軽快なステップ ターンを繰り返し

蝶となり 風に舞い 描いた

 

恋の喜びを 愛の情熱を

鳴り止まぬアプローズ アンコール

 

踊りたい 踊りたい 踊りたい

羽のジュエル 煌めかせ

さよなら 戻れない (?)

それでも消えない 命の光を

今も信じている

 

吉野「静さん」

静「なんだその踊りはって言いに来たの? それとも、そろそろ潮時だからあの子達に未来を託せって言いに来た?」

吉野「わたしがそんなこと言うと思いますか?   一番近くで30年も見てきました。この世界に引退なんてないんです。あなたの口から潮時なんて聞きたくない!」

静「30年か……今回の船の事故、偶然なんかじゃない、潮時を考えろって、そう言われているような気がしていたの。ここじゃやりたくてもショーはできないし。それに、あの子たちのダンスを見ていたら、思わず手を叩きそうになったわ。それほどのパワーを感じたの」
吉野「たしかにあいつらのダンスはすごかった。今までに見たことのない迫力がありました。いつの間にあんなによくなったのか」
静「若い頃はもうだめだって思ったときでも、最後まで踏ん張れた。ダンスが好きだったから。目の前のお客さんが楽しそうに手を叩いてくれるだけで心が震えたわ。でもあの子たち、誰もいない砂浜で、あんなに気持ち良さそうに踊ってた。あの子たちのこと抱き締めたくなったわ」

吉野「だったらなんで抱き締めてやらなかったんですか。拍手しなかったんですか。悔しくなったんじゃないですか? 負けたくないって思ったんじゃないですか?」

静「わたしが?」

吉野「そうです。あなたは観客じゃない。あいつらと同じ、ステージの上で拍手される人なんです。あいつらはいつかあなたを追い越していくかもしれない。でも、それでいいんです。それがあなたがステージを降りる理由にはならない」

静「がむしゃらに踊るあの子たち、すっごく輝いていて、すっごく……羨ましかった。だからわたしも、もう一度頑張ってみることにしたわ。最後の挑戦。あの子達に負けるわけにいかないでしょ?」

吉野「挑戦?」

静「そう、わたしの賭け。吉野、あなた一緒にやってくれる?」

吉野「静さんに言われたら、断れないですよね」

 

りつ子「あ、ありがとうございます! 行くぞー!」

優子「わたしも参加していいかな…?」

りつ子「もちろん!えっ優子ちゃんもダンス好きなの?」

優子「うん…みんなに負けないくらい、大好き!」

りつ子「そうなんだ~うんうん!一緒にやろ!」

ミエ「ねえ、わたしたち踊ったことないんだけど、一緒にやってもいいかな?」

レイ「おじゃまになるかも」

りつ子「そんなそんな! 大丈夫です! 一緒にやりましょう!」

静「吉野から聞いてもらったと思うけど、今日からここでダンスのレッスンをすることにしたわ。やりたくなかったら、やらなくていいのよ」

レイ「ずっとやってみたかったんです!」

静「そう? でも、ここでやるダンスは時間潰しのダンスじゃない。生きるためのダンスよ。いいわね」

吉野「じゃあ静さんの声をしっかり聞いて~」

● Dance Lesson

静「りつ子! あなたわたしの髪を触ってるよりそっちのほうがずっといいわ」

静「優子ちゃん! 良いじゃない! あなたとっても素敵よ」

静「ミエちゃんレイちゃん上手くやろうとしない! 楽しんで!」

 

涼子ちゃん、慎吾さん、時生くんも合流する。 

静「あなたたちもやるのね」

涼子「はい」

静「余計な感情に足をとられない。ダンスが好きって気持ち、絶対に忘れちゃだめよ」

「「「はい!」」」

 

亨「静さん、これはどういう…」

静「どうって、リーダーが言ったのよ。ダンスを見てほしいって。だから吉野に言ってみんなを集めてもらったの。折角なら本番通りにやろうって」

亨「りっちゃん…」

優「優子ちゃんも」

修一「慎吾たちもいる!」

静「あなたたちもやるでしょ?」

「「「はい!」」」

吉野「よーし、それじゃあフォーメーション作ってやっていくぞ、みんなそれぞれの位置について」

静「みんな呼吸を合わせて。音楽が体に入っていくのを感じて」

 

静「ほらあなたたち! 顔が怖いわよ! 笑って!」

 

♪ 君の未来

(亨)空が掴めそうな気がした

   青く輝き出した景色

 

(優)初めて踊ったあの日の気持ちが

(修一)鮮やかに もう一度 胸に溢れ出す

 

今だけをこの時を信じて

もっともっと舞い上がれ

(修一)夢のリフレクション

    世界中に映し出せ

 

思いっきり響かせた足音

ずっとずっと遠くまで

ノイズ蹴散らして

進め 掴め 光れ

君の未来

 

(ミエ・レイ)遥か水平線の先に 何があるかわからないけど

(優子)初めて奮えた あの日の勇気が

(りつ子)この背中強く押してくれるから

 

(慎吾)喜びも悲しみもすべてを

    ぎゅっとぎゅっと抱き締めたら

(時生)次のステージへ 扉が開くはずさ

 

(亨・優・修一)叫んでも叫んでも願いが

        冷たい風に消されても

(静)決して諦めない

(亨・優・修一)思い通り描け

君の未来

 

今だけをこの時を信じて

もっともっと舞い上がれ

(亨)夢のリフレクション

   世界中に映し出せ

 

(優)思いっきり響かせた足音

(修一)ずっとずっと遠くまで

(亨・優・修一)ノイズ蹴散らして

        進め 掴め 光れ

思い通り描け

君の未来

 

亨くん、優くん、修一くんがセンターに残り、それぞれ黄色、青、緑のスポットライトを浴びる。 

 

吉野「静さんの挑戦は、笑顔で続きました。そして彼女の賭け、とは、あいつらをこの島から送り出すことでした」

静「ボートは10人乗り。わたしたちが乗らなければ、彼らはこの島を出ることができる。ここにいても何も変わらないけど、彼らが旅立てば、未来が拓けるはず。もちろんここを出たってどうなるかわからない。でも今のあの子たちならどんなに苦しくても生き抜いてくれるって、そう思うの」

吉野「そう、静さんは言いました。わたしも、今の彼らならやってくれると思います。たとえ時間がかかったとしても、挫けるな! 後悔するな!」

静「あ、それと、助けが来なかったら、あなたわたしと一緒にここで死ぬのよ。嬉しいでしょ?」

吉野「もちろん喜んで! そう答えました!」

 

上下からひとりずつ出てくる。優くんは下手から。 

吉野「人生にはさまざまな道があります。彼らはそれをどう生きるのか」

 

修一「目の前にある道を」

優「俺たちはどう生きるか!」

亨「さあ、みんな! 出発だ!!!」

「「「いってきます!!!」」」

 

 カーテンコール

優くんは下手から登場。上手袖を呼ぶ。

 

一旦みんな捌け、暗転後、 

20日後、全員無事に救出された」LEDパネル点灯。

 

 

 

 

 

おしまい。

 

 

 

京都公演が終わったら、それぞれのシーンの感想や考察を書こうかなと思っています。